親世代 その1
「藍忘機の母親(藍母)について」
母親に関しては藍啓仁(藍先生)の言葉も色々と残っています。
・道を外し 素行の悪い者(歪門邪道・品行不端(みだら・たちが悪い))
・奸邪(かんじゃ)である(心が曲がっていて、邪(よこしま)なこと)
・前藍宗主の一生を台無しにした
藍先生の評価が非常に厳しいことが分かります。
ここまで言われてしまう藍母の身分とはどんなものでしょうか。
藍曦臣(藍兄):
かつて父が若かりし頃、夜狩から戻る途中、
姑蘇の 城外 で母と出会い心を奪われたそうだ
だが母は父に心を奪われてはおらず、父の 恩師 まで殺した
お世話になっている「魔道祖師用語集」によると、夜狩とは夜間に行われるそうです。
夜狩から戻る途中というと明け方少し前くらいでしょうか。
その薄暗い城外で藍母と出会ったようです。
城外…古代中国ではとても危険な場所です。
人々は高い城壁に囲まれた城内に住んでいるので、閉門後に城外にいるものは強盗か酔っ払いかという世界だそうです。
そんな危険な場所を若い娘が出歩くなんてありえないでしょう。
しかし藍母はそこにいたわけで…。
となると、藍母は反社の人間?強盗する側?などなど。
色々と考えてしまいます。
もちろん昼間に出会ったかもしれません。
結局、何時に出会おうと、藍先生の評価が変わるわけではありません。
私は単なる悪党稼業なら藍先生はここまでひどく言わないと思います。
おそらく藍母の職業に原因があるのではないかと思っています。
たとえば神降ろしをしたり、占いをしたり、さまざまな祈祷を行う巫女のような職業です。
彼ら彼女らの中には「祈祷代」と言って大金を払わせる者もおり、また生贄の動物から血をしぼったり。
踊りを踊ったり、みだらな儀式を行う連中もいたそうです。
家訓3000条の藍氏からしたら、まさに妖巫、邪道の極みに感じられたと思います。
特に堅物の藍先生にしたら、禍々しくて近づきたくない人々になるでしょう。
しかし姑蘇の舞台となった江南では疫病が多く、男の子の死亡率が高かったそうなので、病気平癒の祈祷をしてくれる巫女さんはとてもありがたい存在だったと思います。
もちろん藍母は美人なので ”ひとめぼれ” もアリですが、巫女の持つ強い生命力に藍父は引かれたのではないかなと思いました。
城外の農家に頼まれた祈祷がようやく終わり、数人の従者と共に家に戻る途中、麗しい若者と出会った…。
出会いは良くある情景だったのではないかと思っています。
「藍父の恩師とは」
長きにわたり藍氏は座学を通し仙門の師弟に教育を行ってきました。
祖父、父、子供たちまでお世話になっている仙門もいるでしょう。
こうなると逆に藍氏側が恩師と呼ぶような人物が仙門の中にいるのでしょうか?
その人物が殺された時、皆が怒りを覚えたようなので、そこから分かるのは真の仙師であり、深く付き合いがあったということです。
「藍家好み」なら、教養高く、優雅で、無欲で、霊力も優れ、長生き。
おそらく見た目も枯淡ながらも活力を感じさせる人物なのではないかと思います。
そんな人物がドラマに出て来たでしょうか?
私は名前さえ出てこない、ある人 が、恩師なのではないかと思っています。
延霊道人
「魔道祖師用語集」では、「抱山散人の弟子の中で一番最初に山を下りた道士」となっています。
小説でもほぼ名前だけで、暁星塵が義城で彼について、いくつか話をしてくれただけです。
「100年前の陰鉄の状況」
藍翼によって封印を解かれた陰鉄は災いを撒き散らしましたが、ようやく落ち着きを取り戻します。
この時の陰鉄の状況をまとめてみました。
・藍翼は自分の霊識を使い寒潭洞で陰鉄②を鎮める。
・聶家では6代目が刀霊と邪祟を石の祭刀堂内で戦わせるという妙案を思いつき、陰鉄③を鎮める。
・抱山散人は小さい陰鉄の欠片④を保管。
・⑤は暗黒剣のまま屠戮玄武の腹の中。
陰鉄①は霊脈の豊かな潭州の 『蒔花苑』 に鎮められました。
そしてこの陰鉄の番人となったのが 延霊道人 だと思います。
「暁星塵が語った延霊道人について」
(私訳)
抱山散人の弟子の中で初めて下山した者。
生まれつき能力が高く、そして強かったため人々は彼を称賛し尊敬した。
彼も正義を貴ぶ ”正道の仙師” であることを自負していた。
しかしその後、何に遭遇したのだろうか、彼の性格は突然変わってしまい
冷酷残忍な人殺しの悪魔と化してしまった。
そして最後は斬り殺されてしまった。
「蒔花苑での延霊道人」
(私訳)
伝説によると、花園の最初の主人は詩人であった。
彼は自分で色々な花を育てたり、友に接するかのように育てた花に向かって詩を聞かせる日々を送っていた。
いつしか花も主人の情熱に影響を受けたのか、気を集め精怪を生み出した、それは蒔花女となった。
蒔花女は客が来ると詩を吟じさせ、主人のように上手なら喜んで花を送ったが、へたくそな時は花のムチで客の顔を打った。
打たれた者は気を失い、目が覚めた時は自分が蒔花苑から追い出されたことに気づくのであった。
十数年前までは花園を訪れる人は多く往来も頻繁だった。
詩を愛し、花を愛す延霊道人の人柄が伝わってくるようなエピソードです。
そして蒔花女のヤンチャなふるまいが多くの仙師や詩人たちを魅きつけました。
今でいう芸術家たちが集まるサロンという感じでしょうか。
抱山散人の直弟子で、どこの門派にも属さず、人柄も良い。
”詩を愛する者なら来るもの拒まず” という姿勢で貫かれた蒔花苑にはいろんな人が訪れるようになったと思います。
「藍氏と延霊道人の関係」
100年前、男系を尊ぶ藍氏が藍翼に宗主を任せた理由は謎ですが、やはり男の適任者がいなかったのでしょう。
次の男子は幼いのか、ひょっとしてまだ生まれてもいないのか…。
そして突然藍翼が寒潭洞で自らを封じてしまい、藍家は「宗主不在」という危機に見舞われてしまいました。
この厳しい状況の中、延霊道人が下山したことは藍氏にとって最大の幸運だったはずです。
もともと抱山散人と藍翼は親友同士。
そのよしみで祖先供養、邪祟退治、弟子の教育など頼みにくいことも頼み、難局を乗り切ったのではないかと思います。
藍父も幼い頃より延霊道人に教育を受け、可愛がられ、恩師として深く敬愛するようになったと思います。
「サロンに集う人々」
時が経つにつれてサロンを訪れる人たちは増え、交流も盛んになったと思います。
抱山散人は仙術に優れていましたが、特に「医術」に関してもその名は伝説として広まっていました。
温寧が抱山散人を「死人を生き返らせるという伝説の隠逸仙師」と呼んでいました。
暁星塵の眼を宋嵐に移植したことはドラマの中で私たちも目撃しました。
仙術や詩の愛好家以外に医術の知識を求めて延霊道人のサロンにやってくる人もいたでしょう。
その一群に「藍母」がいたかもしれません。
「病気は祖先霊の怒り」などという古臭い教えより、医術という新しい知識に興味津々だったのではないかと思います。
ここで藍父と藍母は再会した可能性はかなり高いと思います。
「九天玄女への片思い」
舞天女についての噂話が原著にあります。
(私訳)
どこぞの仙師が ”九天玄女” に密かに想いを寄せた。
片思いの辛さを慰めるため、彼女そっくりの石像をこの洞窟で彫りはじめた。
しかし玄女に見つかってしまい、玄女が激しく怒ったため、未完成の石像はそのままにされてしまった。
どこぞの仙師…私は 延霊道人 だと思っています。
九天玄女と呼ばれる女性に片思いをしてしまったようです。
恋などとっくに無縁と思っていた彼の心を動かしたのは誰か。
それを解くカギは聶懐桑の説明の中に登場します。
聶懐桑:
潭州にある花園では女が月下で詩を吟じる会を開き、詩が見事なら ”蒔花” を一輪贈る。
”蒔花” は3年散らず芳香が続く。
そもそも九天玄女は中国神話の女神です。
戦術と兵法を司る女神で、水滸伝、西遊記などにも登場するほどの有名人です。
そして お香を発明したという伝説 も残っています。
人々は玄女を「香馬」と呼んでいたそうです。
玄女は神様になる前、病が重くて薬も飲めずにいた父親のために漢方の材料で香を作り、その香りを吸うだけで病が治るようにしたそうです。
”蒔花” は3年散らず 芳香 が続く。
香り立つ花を送る女性を皆が「九天玄女のようだ!」とあだ名をつけ、その美貌と教養でいつしか会を開催するほどの人気を得たのでしょう。
月や花、女性らしい演出も風雅を愛する人々の心を捉えました。
そして延霊道人も気がつけば彼女に夢中になっていたのです。
しかし告白できない理由がありました。
自分がジジイだから?
たとえ100歳越えでも延霊道人ほどの人なら見た目も50代で通用するのではないでしょうか。
どうしても告白できない理由…それは相手が ”人妻” だからです。
「人妻の正体」
では、この人妻とは誰なのか。
それは聶夫人…赤鋒尊と聶懐桑の母親です。
映画「乱魄」で聶懐桑が剣術もダメ、勇気もない自分を兄は見下しているとスネます。
すると金光瑶が「でも聶懐桑には ”奇門遁甲” の知識がある」といって慰めるシーンがあります。
伝説では ”奇門遁甲を授けたのは九天玄女” と言われています。
奇門遁甲とは方位と暦で占う秘術。
興味のあるかたはwikiもあるので調べてみてください。
聶家の祭刀堂の結界は奇門遁甲の方法で結界を張っているようです。
聶夫人は呪術に詳しい門下の家から嫁いできたのかもしれません。
そして利発な息子にこの難しい奇門遁甲を教えたのでしょう。
聶夫人は、九天玄女であり、月下の女でもあったのです。
暁星塵:
(延霊道人について語り続ける)
しかしその後、何に 遭遇 したのだろうか、彼の性格は突然変わってしまい…
この ”九天玄女との遭遇(出会い)” が延霊道人を破滅へと導くことになったのです。
恋は恐ろしい。 日本でも久米仙人、一角仙人、歌舞伎の鳴神では鳴神上人など。
下界の愛欲など自分には関係ない!と思っている者ほど、堕ち始めると止まらず…。
「陰鉄とお守り」
抱山散人は延霊道人が下界に降りる際、陰鉄の怨念から身を守るための宝器を与えました。
この宝器は陰鉄の怨念が害を加えようとすると震えたり、夢で知らせたりします。
玄鉄の扇子
延霊道人が蒔花苑で陰鉄の影響を受けずに過ごすことができたのは扇子が持つ宝力のおかげでした。
扇子に描かれた風景は夷陵の山々。
描いた人は抱山散人ではないかと思っています。
しかし延霊道人は扇子を聶夫人に贈ってしまいます。
おそらく聶家の刀法が、まるで「舞」のようだという評判を聞きつけ、歓心を買いたくて贈ってしまったのでしょう。
しかしその下心は延霊道人を破滅に導きます。
宝器がなくては陰鉄の怨念を直接受けてしまうため非常に危険でした。
そして次は最大の邪魔者…彼女の夫 聶宗主(聶父)の殺害計画を立てます。
温若寒は陰鉄に関心があり、以前から延霊道人から封印場所を聞き出そうと接近していました。
今までは延霊道人も軽くあしらっていましたが、ここで取引を持ち掛けることにしました。
延霊道人:聶宗主を殺してくれれば陰鉄を渡す
温若寒:しかし相手は強い 倒せる者がいない
延霊道人:それは刀に霊が宿っているからです 私なら荒ぶる刀に細工することができます (想像)
刀に細工までしたのに聶宗主殺害は失敗し、おそらく聶夫人は宗主の看病をするため蒔花苑に来なくなってしまったのでしょう。
「延霊道人の狂気の影に蒔花女あり!」
蒔花女は延霊道人の気を受けて生まれた精怪ですが、陰鉄の怨念はこの蒔花女でさえも邪祟へと変異させました。
陰鉄は延霊道人を操り、邪祟化した蒔花女を舞天女洞の石像に憑依させます。
そして自身(陰鉄)を心臓部に埋めこませることで蒔花女の”意識”と動かせる”体”(石像)を手にしたのです。
ちなみに蒔花女の精怪を石像に憑依させたという根拠は花が頭にあって良く似ているからです。
陰鉄はさらに延霊道人をそそのかします。
怨気をたくさん吸えば力が強くなる。
強くなれば聶夫人の霊識を吸うことで 心も聶夫人そのものになれる。(私の妄想)
延霊道人は人殺しの悪魔と化し、殺戮を繰り返し怨気を集め、ついには聶夫人を祠に監禁し、霊識を石像に吸わせようとします。
「最後に起こったこと」
聶夫人が誘拐され、舞天女祠には救出に向かった聶家の家臣たちが揃っていました。
そして、その中に ”藍母” がいたのです。
誘拐された時に居合わせたのか、または聶夫人の友人ということで呼ばれたのか。
または最悪、人質交換のために…など、など。
聶家にとってこんな醜聞、絶対に他家に知られてはならないので、なんとかこの場で終わらせようと焦るばかりだったと思います。
ここで藍母によって延霊道人は殺されました。
検証したいのは暁星塵が語った延霊道人の死に方です。
(私訳)
最後は 人の 刀(かたな) で叩き殺されてしまった。(被人乱刀 砍 死)
「砍」
意味は「叩き斬る、ぶった斬る」です。
延霊道人はただ斬られたのではなく、かなり激しく斬られたようです。
それも 「刀」 で…。
「刀」 は聶家が使う武器です。
仙師の剣や刀は金丹がなければ簡単には扱えません。
温晁の愛人「王霊嬌」は霊力が低いため剣を持つことができず、コテを持ち歩いていました。
では金丹を持たない藍母が仙師の刀で人を殺すことはできるのでしょうか?
答えは「無理」です。
最後に起こったことを推測してみます。
おそらく兵士たちも荒ぶる延霊道人に虫けらのごとく殺されてしまい、あっという間に全滅したでしょう。
聶夫人は藍母を守るため一計を案じ、延霊道人から贈られた扇子を取り出し、舞を見せると持ち掛けたのです。
クルクルと回りながら優雅に扇子をひるがえし、延霊道人が動きに気を取られた瞬間、隠し持っていた刀で胴切りしたのではないでしょうか。
そして天女像に近づきすぎてしまったため霊識を吸われてしまい、自分が延霊道人を殺したことも忘れてしまったのです。
ここからは憶測ですが、藍母は藍家の恩師・延霊道人を聶夫人が殺したとなると両家で大変な問題になると思い、あえて自分がやったと名乗り出たのではないでしょうか。 幸い、聶夫人も殺害の記憶を失っている。
自分が罪をかぶっても隙を見て姑蘇を逃げだしてしまえば何とかなると思ったのかもしれません。
しかし自分を守るために家を捨てる覚悟を見せる藍父に愛を感じ、軟禁を受け入れたのかなと思います。
「だが母は父に心を奪われてはおらず…」と藍兄が言っていましたが、それは誰から聞いたのでしょうか。
嫌いな相手との間にできた子供が…
男の子2人
美しい、健康
文武の才があり、また音楽に優れている
人望、徳を備える
藍家が認めなくても、天が二人の絆を認め祝福しているのは確かでしょう。
「父と母の生活」
その後、夫婦は寂しい別居生活を送り続けたような語られ方をしていましたが、本当のところはどうなのでしょうか。
アニメでは藍母の住まいには竜胆(りんどう)が植えられていました。
”竜胆の花” は日光が当たると開き、日が沈むと閉じるという時計のような性質をもっているそうです。
規則が厳しい雲深不知処、亥の刻には皆が就寝します。
皆が寝静まった頃に二人は逢い、日が昇る前にそれぞれの部屋に戻る。
竜胆はそんな生活の象徴なのではないかと思いました。
-息子たちを残して-
物語の中では藍父は不明、母はいないで片づけられていました。
私は、せっかくドラマなのだから違う生き方をしても良いのではないかと思いました。
藍先生が「一生を台無しにした」と言っていたので、藍氏の宗主という地位を捨てて、二人揃って俗世に逃げてしまう…というのを考えてみました。
藍父が銅鑼を叩き、笛を吹き、または描いた護符を売ったりしながら藍母の祈祷を助け旅をする…。
そんな生き方もありかなと思いました。
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