遺跡馬鹿−レポート「イラン」


このレポートは「遺跡へ行くぞ」の「遺跡かたっぱしリポート」にも掲載されています。


◆ バムにて

    バムの遺跡(市内から遺跡へは歩いて行けます)
    今から2500年前に造られた遺跡。
    一見すると長い壁に囲まれたモスクのようですが、中に入ると小さな家々が立ち並ぶ、城塞都市となっています。
    迷路のような通路を抜けていくとカサカサに乾いた古城があらわれます。
    その上に建つ高さ10m位の塔を目指して階段を駆け上がり、小さい窓から顔を出してみると、箱庭のような眼下の廃墟と、その向こうに広がる乾ききった大地に目を奪われます。
    多くの人々が住んでいたことは辺りに散らばるイスラミック・ブルーに彩色された陶器の破片で察しがつきますが、今は土壁をなでて通り過ぎる風だけがここの主人のようです。



◆ ヤズドにて

    ヤズドには少数だがゾロアスター教徒が今だに住んでいて、昔ながらに信仰生活を続けていると聞き、興味津々で訪れてみました。
    まず、「サイレント・タワー=沈黙の塔」と呼ばれる鳥葬場へ行ってみました。
    ゾロアスター教徒は死者の処理を以下のように考えていました。
    「土に埋めると土が汚れ、火に燃やすと火が汚れ、放置すれば風が汚れ、水に流せば水が汚れる…」。
    そこで死体を鳥に食べさせることにより、動物を生かし、大地を汚さない「鳥葬」を選択したそうです。
    この鳥葬場を地元の人は「ダフメン」と呼んでいるので、遺跡へ行くときには、ダフメン近くを通る乗合タクシーで町外れまで行き、そこから20分ほど歩くことになります。
    その時は一人だったので風の音がやけに大きく聞こえ、心細かったのをおぼえています。
    トボトボ行くと、目の前に両はじをそぎ落とされたような円錐形の二つの丘が見えて来て、その丘の頂にそれぞれ鳥葬場が設けられているのが分かります。
    しかしどちらも石垣でぐるっと円く囲われているので、外からでは中を見ることが出来ません。
    近寄って調べてみると向かって左側の石垣には小さな小窓があり、そこからかろうじて身体を潜り込ませることが出来そうだったので、ちょっと入ってみました。
    中央は窪んでいて、直径は8mほど。中心を基点に三重の円を描くように石が配置されていました。
    石の間には今でも白い人骨やボロボロの衣類がのぞいていました。
    ここから空を見上げてみると、とても青く、気持ちがすっと吸い込まれるようでした。
    ここにいると空が近くに感じました。
    山と平野部の境に位置するこの鳥葬場は、チベットの鳥葬場と地形がよく似ているとおもいました。



◆ ゾロアスター教の寺院にて

    ヤズド市内には大きなゾロアスター教の寺院=ファイヤー・テンプルがあります。
    地元の人はここを「アタシュケデ」と呼んでいます。
    この寺院には1500年前から燃え続けている聖なる火があります。
    なぜゾロアスター教を「拝火教」というのかをちょっと説明します。
    ゾロアスター教徒が重要視するアシャ(正義)という概念は、宇宙の法則そのものの象徴で、このアシャによって宇宙の時間が運行され、天体の運行や季節の変化が起きると考えられていました。
    そしてそのアシャのシンボルは「火」であると考えられました。
    つまりゾロアスター教徒にとって火とは信仰のよりどころ(魂)を指しているのです。
    ゆえに神殿では火を大切に祭ってあるわけです。
    この寺院では白い帽子に白衣を着た司祭が火を守ってました。



◆ ケシム村にて

    ヤズドの町外れ(ダフメン近く)にゾロアスター教徒が今でも住む「ケシム村」があります。
    特別に頼んで寺院の中に入れてもらいました。司祭と呼ばれる老人は片目をアラブ風スカーフで覆い隠しており、ちょっと不思議な人物でした。
    部屋の中央にワイン・カップのような小鉢があり、中には灰がたっぷり入ってました。
    よく見ると中央に小さな炭が埋まっていて、「古い火種だ」と老人は言いました。
    儀式を再現してくれるというので、何をするのかと思ってみていると、老人は小鉢の傍らにおいてあった強い匂いのする木くずを指でつまみ、パラパラとその炭に振りかけました。するとポッと火がついて白い煙が立ち上ってきました。 やがてその香りは部屋を包み込み、なんだか不思議な感じでした。
    あとで日本の葬式に行う「焼香」と同じ作法だったなと思いました。
    この寺院は二階建てで、回りを細い水路が取り囲んでいましたが、この水路も大切な意味を持っているそうです。



◆ ペルセポリスにて

    有名なところなので簡単に。
    ペルセポリス遺跡の北西側には111段の階段が翼を広げるような形で築かれています。この階段は馬でも上がれるように、一段一段、高さが低く設計されているそうです。
    ペルセポリスのデザインは左右対称を意識して作られています。
    階段上にある「万国の門」に彫られている人頭獣身の像は「頭は知性」「身体は力」を表していて、その像の背面に彫られている、くさび形文字の意味は「アフラ・マズダ(ゾロアスター教における最高神)がすべてを作った」と書かれているそうです。
    遺跡の背後にある山にはアルタクセルクセス3世の磨崖墓が彫られています。
    近寄ってよく見るとノミの跡がびっしりとついていて、耳を澄ますと当時の職人さんたちの工事風景が甦ってくるようです。


◆ パサルガダエにて
    アケメネス朝ペルシャの創始者キュロス大王がつくった宮殿跡。
    近くには6段の基壇の上に切妻家屋がのっているキュロス大王の墓があります。
    ここにはあまり建物や石像などは残っていませんが、おもしろい人物が彫られている石版があります。
    それは人物の足が魚の尾びれになっている像です。これは自由の海を表しているそうですが、他にもきっと由来があるのだと思います。



◆ ナクシュ・イ・ルスタムにて

    ペルセポリス遺跡から北に4キロほどいったところにある、ダレイオス大王たちの墓所。
    切り立った崖に3段の基壇が築かれ、その上に大王たちの墓が十字形に彫られています。
    その場に立つと威圧されるほどに大きく、石の質感が重苦しく感じるほどです。
    その遥か上方にみごとなレリーフがあり、そこにはダレイオス大王が最高神アフラ・マズダに王家とペルシアの上に『神々の最高の神』の加護が得られるように祈願している姿がはっきりと彫られています。
    アフラ・マズダの頭部は円形で表され、これは知性と教養を表しているそうです。
    ゾロアスター教の世界観においてもっとも大きな特徴は善と悪の対立で、アフラマズダ神はその中心にいる存在です。その名は「全てを知る者」という意味です。
    また、ここには水の女神「アナヒータ」のレリーフも残っています。
    アナヒータはゾロアスター教では水そのものと考えられており、川の水が世界に広がって行くように全ての場所に偏在すると考えられていたそうです。

    その他、テヘラン近くのレイという昔の首都にも泉の近くにレリーフが残っています。



    参考文献

    「ペルセポリスから飛鳥へ」 松本清張 日本放送出版協会
    「ペルシア帝国」 ピエール・ブリアン 知の再発見双書

    その他、雑多な資料等々。


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